本書は過去数年間にわたって不定期刊行物「書物学」(勉誠出版)に連載した「英国愛書家の系譜」を中心に、新たに書き下ろして3編ほどを加えて一書にまとめたものである。取り上げた中にはハリウェル・フィリップスのような奇人から始まって、さほど奇人ではない蒐集家、またエリザベス一世の魔術師だったジョン・ディーのような著名人から、英国の友人で知っていると答えたのは一人しかいなかったものの、我が国の英和辞典には掲載されているピーター・ヘイリンまで、19人をまな板に乗せた。各章は時代背景から始まって奇人たちの生い立ちを略述し、我が書庫にあるそれぞれの手沢本を取り上げた。表紙のデザインには世界の喜劇王と呼ばれたチャーリー・チャップリンの蔵書票を採用したが、チャップリンの章から読み始めても面白いと思う。
This book grew out of ‘The Tradition of English Bibliophiles’, which I have contributed to the irregularly issued journal entitled Bibliology. I have added three entries to the sixteen eccentrics, whomI had dealt with. Thus, the line-up extended from very distinguished English collectors, such as John Dee, Charlie Chaplin, A. N. L. Munby, and Sir Geoffrey Keynes, to the lesser known eccentrics such as Peter Heylyn, Thomas Baker and ‘Honest’ Tom Martin.
- 00:43 16-20世紀の英国愛書家
- 01:25 魔術師ジョン・ディー
- 01:29 ローレンス・ノウェル
- 01:45 ロバート・ヘア
- 01:56 ジョン・モリス
- 02:03 ピーター・ヘイリン
- 02:28 ウォルター・チェトウィンド
- 02:37 トマス・ベイカー
- 03:15 ラルフ・ソアズビー
- 03:26 モーリス・ジョンソン
- 03:39 トム・マーティン
- 03:53 ジョージ・バラード
- 04:05 ジョン・ラブデイ
- 04:24 リチャード・ファーマー
- 04:38 フィリップ・ブリス
- 05:30 ジョージ・オーチャード・ハリウェル
- 06:31 ジェフリー・ケインズ
- 07:42 チャーリー・チャップリン
- 07:48 グレアム・ポラード
- 08:00 A. N. L. マンビー
- 08:42 愛書家よ、永遠なれ
- 書物史講座 再生リスト
00:43 16-20世紀の英国愛書家
各章に1人ずつ重点的に扱いしましてエリザベス1世の魔術師と恐れられたジョン・ディーのような著名人から、英国人でも思い浮かぶことがないような愛書家蒐集家をまな板の上に挙げましたで社会的、時代的な背景の中で略歴を紹介し、そしてその人物が所蔵していた手沢本(association copy)を分析しようと企てたわけであります。
01:25 魔術師ジョン・ディー
John Hardyng’s Chronicle owned by John Dee, Magician to the Queen
どの章からお読みいただいても結構なんですが、どんな人物を扱ったかと言いますと、まず女王陛下の魔術師だったジョン・ディー
01:29 ローレンス・ノウェル
Laurence Nowell, who owned the BeowulfManuscript
それから古英語学者のパイオニアでありましたローレンス・ノウェル、この人は英文学史で必ず最初に出てくる『ベーオウルフ』の写本を所有していた重要な古英語学者であります。
01:45 ロバート・ヘア
Robert Hare, a great benefactor to Cambridge
それからロバート・ヘアという、ケンブリッジ大学の関係者で好古家antiquaryでありましたこの人物。
01:56 ジョン・モリス
John Morris, the long forgotten book collector
それから全く今は扱われない忘れ去られた蒐集家ジョン・モリス。
02:03 ピーター・ヘイリン
Peter Heylen’s Microcosmos infuriated King James
それから、これまたイギリスでもほとんど知られていないんですけれど、ピーター・ヘイリンという、17世紀前半の色々問題を起こした人物、「国王を立腹させた学者ピーター・ヘイリンの場合」。
研究社の英和中辞典ですか、あれにはちゃんとピーター・ヘイリンって出ているんですだけど、英米の辞書ではほとんど出ていない人物ですね。
02:28 ウォルター・チェトウィンド
Walter Chetwynd, an antiquary who scrutinized his own family arms
それからウォルター・チェトウィンドという、先祖の家紋を一生懸命調べ上げた好古家。
02:37 トマス・ベイカー
Thomas Baker’s fellowship was deprived of his beloved alma mater
それから、ちょうど外国からやってきたイギリスの王に対する忠誠を誓うことを拒否したため、とうとう最後は自分の愛するケンブリッジ大学母校から追放されたトマス・ベイカー。この人物は自分が持っている本のありとあらゆる本の中に1行「これはケンブリッジを追放されたトマス・ベイカーの書物也」と書き入れてありました。しかも非常にエキセントリックな書体で書き入れた人物です。
03:15 ラルフ・ソアズビー
Ralph Thoresby, a distinguished celebrity in Leeds
それからイングランドの北の方にリーズという大きな町がありますが、そこで活躍したラルフ・ソアズビーというantiquary(好古家)。
03:26 モーリス・ジョンソン
Spalding Gentlemen’s Society founded 1710 by Maurice Johnson
それからリンカンシャーにスポールディングという小さな町があります。今も小さいですがそこにSpalding Gentleman’s Societyというのを作ったモーリス・ジョンソン。
03:39 トム・マーティン
The Identity of the Honest Tom Martin Revealed
自らHonest(正直者)のトム・マーティンと称していた人物の正体。正体というからにはその形容詞「正直者」が怪しいという話であります。
03:53 ジョージ・バラード
George Ballard, the late blooming antiquary
それから遅咲きの好古家ジョージ・バラード。この人物の私の大好きなantiquaryでbibliophile(愛書家)で大コレクターでありました。
04:05 ジョン・ラブデイ
John Loveday, a youth who astounded Christ Church’s Dean
それからオックスフォードのコレッジの学長のところに行くと、重要な本のチョーサー全集を売ってくれるよ、と聞いて、学生の分際でのこのこ紹介状も持たずに出かけていったジョン・ラヴデイという人物がいるんですが、その人についても書きました。
04:24 リチャード・ファーマー
Richard Farmer, a Shakespeare scholar and the Vice-Chancellor of the University of Cambridge
一方ケンブリッジ大学のVice-Chancellor(副学長)にまでなったシェイクスピア学者のリチャード・ファーマー。この人物が所有していた書物も1冊取り上げました。
04:38 フィリップ・ブリス
Putting P before signature B in the case of Philip Bliss
オックスフォードでつかず離れずに仕事をしていたフィリップ・ブリスというコレクター、この人物はイギリスの書物、古いものをご覧になると折丁記号というsignatureというのがページとは別にナンバーが入っているんですが、その折丁記号の「b」がありますとその前に「p」を書き込むという、「pb」というイニシャル、すなわちフィリップ・ブリスになるわけですが、そういう形で自分の書物だという自己主張をした、変わったやり方の人物でありました。
フィリップ・ブリス、18世紀の終わりから19世紀の人物これとよく似たことをやったのはアメリカに1人大統領がおりました。それを私見つけましたので、扱っております。
05:30 ジョージ・オーチャード・ハリウェル
James Orchard Halliwell, or Jekyll and Hyde in Book History
それから、書物史のジキルとハイド、要するに昼と夜の顔が全然違う、いい顔していると裏で何か悪いことしている。その書物史学者として、ジェームズ・オーチャード・ハリウェルという人物。
今でも読まれるいくつかの本がありますけれど、この19世紀のジェームズ・オーチャード・ハリウェルは、あの写本の大コレクターでありましたサー・トマス・フィリップスに取り入ろうとして、まずヘンリエッタというお嬢さんと結婚し、そして相当義理の父親と諍いを起こすんですが、最後はハリウェル・フィリップスという、そのhyphenated name(ハイフン付きの名)名前を二つくっつけるんですね、そういう姓を許される。そういう、ジキルとハイドとしては非常に面白い人物、これも取り上げました。
06:31 ジェフリー・ケインズ
Chasing after two hares, Sir Geoffrey caught them in Surgical Science and in Bibliography
それから「二兎を追う者、一兎も得ず」と言いますが、書物史の中ではジェフリー・ケインズ、サー・ジェフリー・ケインズという、ケインズといえば、あの経済学者のケインズを思い出されるでしょうが、このジェフリー・ケインズはその弟にあたります。
この人物は、二兎を追って二兎を得た人。外科医としても、大変な力を尽くしました。
例えば、あの有名な女流小説家のヴァージニア・ウルフが、睡眠薬の飲み過ぎで命が危なくなったときに、彼はそばにいて、そして胃の洗浄をして助けたという。この話は、私自身がもう晩年のジェフリー・ケインズ卿から、直接話を伺いました。
同時に、彼は大変な書誌学者でありまして、ブレイクとか、あるいはジョン・イヴリンとか、ジョン・ダンとか、優れた書誌を自分のコレクションを基にして完成させているわけであります。
07:42 チャーリー・チャップリン
Charlie Chaplin’s Secret Life with Florence Deshon
それからチャップリンの知られざる過去、チャーリー・チャップリンの話。
07:48 グレアム・ポラード
Graham Pollard, a bookseller and bibliographer, who detected literary forgeries by Thomas J. Wise
書籍商そして書誌学者でもあったグレアム・ポラード。
あの偽物も作って有名になったT. J. ワイズ、これを暴いたのがグレアム・ポラードでありました。
08:00 A. N. L. マンビー
A. N. L. Munby, a bibliographer and Gothic novelist, who was loved in Cambridge
最後に、個人のレベルではケンブリッジでとても尊敬されていた書誌学者、私がどうしても会いたかったのに、半年遅れでケンブリッジに行ったために会えなかったA. N. L. マンビー。
普通ティム・マンビーと呼ばれますが、大変な書誌学者で、トマス・フィリップス卿の研究書五巻本を出した人。
同時に、M. R. ジェームスの伝統を引いた怪奇小説、ゴシック・ノベルを作っていた二刀流の人物ですね。
08:42 愛書家よ、永遠なれ
Floreat Bibliophilia
そのマンビーについての記述で、個人別の話は終わり、最後は「愛書家よ、永遠なれ」という、愛書家というのが絶えては困る、そのためにどうしたらよいか、どうすべきかどういう人を尊敬すべきか、そのようなことを書きました。
これがですねちょうど2、3日前に印刷が上がってきたんですけれど、正式には12月20日に世に出るという形になっております。もう一度申し上げますと、書物に魅せられた『書物に魅せられた奇人たち 英国愛書家列伝』、ぜひお読みいただければと思います。本日はこの辺にいたしましょう。どうもありがとうございました。
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